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夢日記

 昔、夢日記をつけていたことがある。ふつうの日記は三日と続いたことがないのに、夢の日記は三か月以上も続いたのだから、不思議なものだ。
 夢日記をつけるには、目が覚めても決して起きあがってはいけない。体を起こした瞬間に、夢の大部分は記憶から消えてしまうから。いつもベッドサイドにペンとノートを置いておいて、体を横たえた状態のまま手を伸ばし、とにかく覚えているかぎりの夢の描写を走り書きする。
 十分もして読み返すと、もう書いたことを半分ぐらい忘れている。本当に夢は「儚い」ものなのだ。ただ、消えていくはずの夢を文字でつなぎとめることによって、夢ははじめて声高く主張しはじめる。
「夢は、ほんの少し上、ほんの少し未来からあなたを見ている。だから大事なことを教えてくれることもある」。夢分析の先生が言っていた。だから夢をちゃんと記録すれば、夢は自分専用の最高のアドバイザーとなり、人は夢と一緒に成長していくことができるのだと。
 でも、結局わたしは夢日記をつけるのをやめてしまった。毎日不可思議な夢を追いかけて、必死でたぐりよせ、その世界に入りこんでいくことにくたびれてしまった。だからこそ夢は泡のようにもろくできているのかもしれない。
 夢は、たしかに自分がつくり出しているものなのに、まったくつくったおぼえがないから面白く、少しこわい。

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