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どこかに向かって

 この人って、どこに向かっているんだろうと思うことがある。
 何かをがんばっていたり、何かにとてもこだわっていたり、でもそれがまるでその人らしくない、無理しているように見える、そんなとき。
 そのこたえが、急にわかることがある。その人が、どんな自分になりたかったのかがわかる。ああ、この人はここに向かっていたのかと、霧が晴れたような瞬間。
 そのこたえに、さらにその人を認めたり、好きになったりすることもある。
 自分の身がきゅっと引き締まるような気持ちになるときもある。
 なんだ、こんな人になりたかったんだとがっかりすることもある。
 なるほど、この人の影響を受けていたのかと膝を打つようなときもある。
 あんなすごい人でも、こんなことをしたかったんだと笑ってしまうこともある。
 そこに辿り着くまでに、いったいどれだけの努力をしたのだろうと感心するときもある。
 よりにもよって、どうしてそんなところに行ってしまったんだろうと首をかしげたくなるときもある。
 はたと立ち止まって、自分はそんなつもりはなかったのに、ここに来てしまったと思うこともあるかもしれない。けれど、きっとそこに向かって歩いていたのだ。
 運命のいたずらで、強制的に別の道を歩かされることもあるだろう。苦しくても顔を上げて、そこからまたどこかに向かって、歩きはじめるしかない。
 なりたい自分が、明日の自分をつくる。何気ない今日も、誰もがなりたい自分に向かって歩いている。

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