わたしが小学生ぐらいだったころ、ある日ふと、ときどき時間は止まっているんじゃないかと思ったことがあった。だって、たとえ時間が止まっても、時間が止まっているときは世界中、みんな止まってしまうから、時間が止まっていることに誰も気づかないから。
わたしは大発見をしたように、兄にそのことを伝えた。
「時間はときどき止まっているかもしれないんだよ。今、このたった今だって、ずっと時間が止まっていて、また動きはじめたばかりかもしれない。わたしたちが気づかないだけで、時間は何時間でも止まっているかもしれない!」
兄は大笑いをして言った。
「きみが言っていることはものすごくおかしい。だって時間が止まるという話をしているくせに、何時間でも止まっている、なんてね」
そのときわたしは何か、広い宇宙にひとり、ぽーんと投げ出されたような気持ちになった。それからわたしもだんだん大人になって、時間が止まっているかもしれないなんて考えはしなくなった。でも今でもときどき、時間が何時間でも止まっている世界を想像してしまうのだ。